「で、もう終わったのか」
和泉屋に着いた時、店の外で気を失ってのびている和泉屋が倒れていた。その傍らには余裕の表情で煙管をふかしている数馬の姿があった。店の者は数馬の強さに恐れをなし、誰一人自分の主を助けようとしなかったらしい。
「ったく、座興にもならねェ弱さだよ。大体むやみやたらに刀振り回す奴に限って腕の立つ奴はいねェ。急所に一発見舞ってやったらこの有様さ」
「こりゃ助かったぜ。ご苦労さん。後のことは俺に任せて春哉さんの所へ行ってやんな。今は詰所にいるぜ」
賢悟が顎で詰所の方向を示すと、数馬も煙管を懐にしまいこんで立ち上がった。
「ありがとよ」
「それにしても思わずドキッとしたぜ。春哉さん、しばらく見ないうちにますます色気が増してきたな」
「なんだと?」
「上気した顔で“賢悟さん!”なんて呼ばれて抱きつかれてみろ。どんな男でもイチコロだっての。お前の男じゃなかったら間違いなく俺がもらってたな、うん」
「てめェ……」
拳を固めた数馬の姿を見て、喉の奥でくくっと笑った賢悟。完全に遊ばれている。
「冗談だって。ほら、早く行ってこいよ。ありゃたぶん薬でも飲まされてるんじゃないか?走ってきたってだけであんなに色気がでるはずねェからな」
「この野郎、あとで覚えとけよな」
「イ・ヤ」
数馬が全力疾走で駆け出すのを見届けてから、賢悟は十手を持ち直し、さっきとは打って変わった真剣な面持ちで、のびている和泉屋に近寄っていく。配下の同心たちは既に店の中を改めはじめている。
「さてと。……オラ、さっさと起きねェか。おめェには聞きてェことが山ほどあるんだよ」
十手で和泉屋の頬をペタペタと殴ってやってもくぐもったうめき声しか出さない。
(数馬の奴、本気でやりやがったな)
その時二階の窓から同心が顔を出した。
「里村さん、この部屋にある舶来品が証拠になりそうです!あとは蔵と船を調べてみましょう!」
「おう!わかった!」
返事してから視線を和泉屋に戻す。口元には笑みを浮かべ勝ち誇ったような表情のまま、十手をひらひらさせた。
「だってよ。抜け荷の疑いに加え、春哉さんの勾引(かどわかし)の罪でおめェをしょっ引くぜ……って聞いちゃいねェか」